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木ノ匙製作所について
はじめるまで
木ノ匙製作所は自分のほしい物を作るところからスタートしています。
ほしい物とは、「“きれい”ではないもの」でした。工芸的、技術的に優れたものは数多く存在しますし、なるほど木工作家さんが作るスプーンは均整がとれ加工も大変きれいなものです。
ただ、自分が欲していたのはそういうスプーンではありませんでした。形が多少歪んでいたり、彫りが整っていなかったり、いまいち持ち易くなかったり、全然おしゃれじゃなかったり、でも不思議と使ってしまうようなスプーン。そんなスプーンが理想だったのです。
はじめてみる
製作を始める上で決めたのは次の4つでした。
- 小規模(普通の部屋でやる)
- 機械をできるだけ使わない
- ヤスリをできるだけ使わない
- 上手にならない
3番目までの決め事はそれぞれ密接な関係があります。
まず小規模になったのは作業場として準備できるのが普通の家の8畳間ひとつ程度だったからです。そして2番目と3番目は普通の部屋で木工をやろうと思ったら「ある問題」をクリアしなくてはいけないからです。ある問題とは「粉塵」です。ではなぜ粉塵が発生するかといえば機械による研磨が主な製作手段だからです。元は自然に存在する木とはいえ、有害な成分を含むこともあるこの粉塵は木工従事者にとって健康被害に直結する深刻な問題になっています。
その粉塵の発生を防ぐために機械作業と研磨作業を最小限にすることにしたのです。結局導入した機械はバンドソーと呼ばれる帯ノコギリだけでした。どうしてもこれだけは製品の販売価格を許容ラインにもっていくために必要不可欠でした。
また、ヤスリを使わないようにするためには、よく研いだ刃物で木目を読んでスパッと切る必要があります。木の目に逆らわず削った肌にはツヤがでます。番手の細かいヤスリで磨いたよりも滑らかなほどで研磨が必要ありません。刃物を研ぐのは中々骨の折れる仕事ですが、これを疎かにすることはできません。それに、よく研げた小刀で小気味よく削る作業自体は大変気持のいいものです。
このような機械を使わず、ほぼ小刀だけに頼った「こじんまり木工」が、私の目指すスプーンと相性がよかったのが幸いでした。滑らかできれいな曲線を必要としない私には、機械による研磨も必須ではなかったのです。むしろそうした制限があったから製品の方向性も自然と決まったと言えるかもしれません。
4番目の「上手にならない」も、最初に述べたように私が欲しかったものは「きれいなもの」ではないからです。今現在の理想は「素朴だけど丁寧な仕事で作られたもの」を生み出すことだと考えています。
いま現在、これから…
そんなこんなで、今はただひたすら作業場で木のスプーンを小刀で削っています。やはり多くは作れませんが、それでいいと思って日々やっています。
-製作- 縄野 裕輔